Films: Jul.2018『スローターハウス5』ほか
Aug,01 2018 12:00
本数が少ないながら、キョーレツなラインナップとなった7月。
『ミスター・ノーボディ』、『スローターハウス5』を筆頭にやたらと記憶に焼きつけられる一生ものの作品に恵まれる。
あまりに面白かったので、早速カート・ヴォネガットの原作も読んでいる。
そういうものだ。(So it goes)
観た映画: 2018年7月
映画本数: 12本
ポルトガル、ここに誕生す ギマランイス歴史地区
ポルトガル的に異色な感じのするカウリスマキのがいつも通りな雰囲気で映画としては一番良かった。ギマランイスのロケじゃないとの事でイタコホラーなペドロ・コスタ、ビクトル・エリセとマノエル・ド・オリヴェイラのは没落感MAXって事で大航海時代の栄華もインターネット時代で形無しでなんだか悲しい感じ。なかなか。
鑑賞日:2018/07/30 監督:アキ・カウリスマキ、ペドロ・コスタ、ヴィクトル・エリセ、マノエル・ド・オリヴェイラ
シャトーブリアンからの手紙
大小はともかく悪の連鎖に加担したら言い訳無用。理不尽な事件の後にものうのうと生きているやつがいる世界の理不尽さ。ドイツ側がフランス人を指して曰く「連帯責任を理解させるにはあまりに個人主義過ぎる」は身の保身を図るどんな人にも当てはまると云う特大ブーメランで共産世界を声高に叫んで殉死した連中との対比が実に痛い。ラストへの持っていき方は流石の巨匠と云った感じ。なんかもう、無常。
鑑賞日:2018/07/29 監督:フォルカー・シュレンドルフ
父 パードレ・パドローネ
父と息子それぞれの望ましいものと望ましくないもの。彼らの周囲に満ちているその時々の望ましい音と望ましくない音とで実に効果的かつ繊細に表現される心象風景。権力と反抗は反比例して動から静へ、静から動へと変貌する。牧歌的を通り越した色んな意味でキビシイ田舎の生活(そこに住む人々のどうにもならんリビドーも含む)。心の中まで支配する事は難しい。みんな抗え。傑作。
鑑賞日:2018/07/24 監督:ヴィットリオ&パオロ・タヴィアーニ
三人の女
とりあえず、超プリティな双子ちゃん達よりお前らの方が不気味だからと声を大にして言いたい(それぞれの作品の印象のせいもあるけど)。不等号記号な関係の三人の女、それぞれの願望とイニシアチブのバランスは水中かはたまた羊水の如くにグラグラしまくる。全員銃の扱いは上手くなった"姉妹"の様な女達。でもスッキリさっぱり補完する為には邪魔な奴がいると、なんともフェミってる感じで恐ろしげ。そこから上手いこと明るい家族計画できたので良かったじゃんと。もしくはラストが現実のジャニス・ルールの見ていたサイケな夢オチか。どのみち男はいらんって感じで怖い。まぁ正しい解釈はよく分からんけど、なんだか逆にリンチっぽいアルトマン作品。映像もなかなか。良作。
鑑賞日:2018/07/21 監督:ロバート・アルトマン
荒野の千鳥足
酒を断るのが何にも増して罪な感じのとんでもなく"ヤバ"い街。火の鳥の八百比丘尼か笑ゥせぇるすまん的な恐ろしげなブラックユーモアでヤバい。後のランボー1作目の監督でよそ者を理不尽に陥れる感じが同じ風でヤバい程上手い...けどもノーカット編集したからって、あのカンガルーの下りはやっぱりヤバい。んで、メリークリスマスな南半球の熱気と西部劇と誤解されそうな邦題とがまたヤバい。良作。
鑑賞日:2018/07/20 監督:テッド・コッチェフ
さすらいの一匹狼
トニーノ・ヴァレリの監督デビュー作だそうな。先日観た『ミスター・ノーボディ』と比べるとクオリティの差はかなりある。ものの、発破のお洒落な仕掛けや、爺さまの辺りのコミカルな演出、主人公の小憎らしいまでの策士っぷりはなかなか通ずるものがある。遠距離中心の基本的に超絶卑劣な奴ではあるけども、能ある鷹は何とやら。脳筋よりは話が盛り上がるので、良いのではないか。モリコーネ要素がないといささか寂しい。
鑑賞日:2018/07/19 監督:トニーノ・ヴァレリ
瓶詰め地獄
夢野久作原作をふわっと映像化している印象。ロマンポルノの為にカラミは勿論必須。無人島の小林ひとみ萌えから妹萌え等々、原作をリスペクトしているんだかいないんだか良く分からないけれども、流石にカラミに関しては構図や演出に卓越した職人技を感じる。残念ながらタブー感は皆無(駄目じゃん)なものの、何だか夢の様なお話ではある。
鑑賞日:2018/07/17 監督:川崎善広
希望のかなた
ようやく鑑賞。変な間も構図も変わらず安定のカウリスマキ。優しさを示す事が出来る社会であって欲しい。難民の立場的に至る所で身を隠さなければならない状況の末のラストのあの人間らしさ。実に良い、傑作。
鑑賞日:2018/07/16 監督:アキ・カウリスマキ
スローターハウス5
カート・ヴォネガット作品は『猫のゆりかご』しか読んでないけれども、今作も是非読みたい。トラルファマドール星人の云う集合体を超越してふんわりと4次元住人となるビリーはまるでボーマン船長の如く。良くもまぁ、こんな筋を思いつく事。抗う事ができない(あえて抗わない)時間とグールドの精密機器の様な音の組み合わせの妙、これもまた実に良い。傑作。
鑑賞日:2018/07/13 監督:ジョージ・ロイ・ヒル
シルバー・グローブ/銀の惑星
殆どの台詞が頭に入ってこない160分。乗組員が不時着したほぼ地球な惑星で、人間が原因で展開される壮大で長〜いシビライゼーション。マンバギャルみたいなのが沢山出てくる。ほとんどのシーンにて謎台詞を異常なテンションでまくし立てる辺りは、後のポゼッションの地下道のアレに近いものがあって妙に納得。天井桟敷とか好きな人は好きなんじゃないか。そして、いくらなんでもソコに刺して晒すのは勘弁して下さい。色々と強烈な一本。
鑑賞日:2018/07/10 監督:アンジェイ・ズラウスキー
ミスター・ノーボディ
全てが最高。演出が上手いだけでなく、吉田兼好ばりの数多くの名言もほいほい飛び出す。墓石の下に眠るサム・ペキンパーかと思いきや、戦う相手はワイルドバンチ。で、数々の西部劇パロディ。ヘンリー・フォンダのハードルをグイグイも上げまくる犬シリーズの田宮を連想させるテレンス・ヒルのどこまでも策士で超人的なニクさ。と太陽の様な笑顔。何故か映画見る前に聴き込んでいた、地獄の黙示録の先を行く、一度聴いたら忘れられないモリコーネの天才的スコアと良いとこを上げたらキリがない。と云うか駄目なところが見当たらん。シビれる。なんと云うノーボディ。大傑作。
鑑賞日:2018/07/06 監督:トニーノ・ヴァレリ
アレクサンダー大王
アレクサンダー大王をメタファーとして用いた壮大な近代劇。解放者から暴君へと、共産主義の理想と実行の相違の歴史を浮き彫りにする。権力とは?所有とは?の問いを軸としての冷ややかな視点、そしてその視点を見事映像化する、息を飲むアンゲリプロスの魔法の様な長回しも健在。トラディショナルなギリシャ音楽と昇天必然のドローンサウンドも大変よろし。長すぎだけど傑作。
鑑賞日:2018/07/03 監督:テオ・アンゲロプロス
category: 映画レビュー
tags: 2018年映画レビュー, アキ・カウリスマキ, ジョージ・ロイ・ヒル, テオ・アンゲロプロス, トニーノ・ヴァレリ, ロバート・アルトマン