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千夜一夜物語

Films: Dec.2019『千夜一夜物語』ほか

Jan,04 2020 17:00

昨年末の2019年12月24日に先行リリースの新作EP『New Life EP』の大詰め作業で映画どころでなかった12月。
とか言いつつ、前から見たかった'95年のドラマ版の『高慢と偏見』も合間に挟んでみたりする。
心底しょーもない話ではあるものの、きっちり高慢と偏見はされていたように思われる。
ジェーン・オースティンの表現する美しい情景もしっくりくる感じで映像化されていた。
昨年これに加えて、イーブリン・ウォーの『ブライヅヘッドふたたび』に'81年版のTVシリーズと上級英国趣味が目立った。
12月に断トツでよかったのは旧虫プロの手がけた至極のアニメラマの『千夜一夜物語』と『クレオパトラ』。
サイケ度にアニメーションのクオリティ、冨田勲の劇判など素晴らしいところをあげたらキリがない。
サイケアニメの決定版の『ファンタスティック・プラネット』の先を行く事、数年前ってのもまた凄い。
11月に続いてアラン・ロブ=グリエ作品をチラホラ交えつつ、微妙に俺的青春の'90年代作品が多かった気もしなくはない。
いつもは劇場で観るラース・フォン・トリアー新作はやっぱり痛くてキョーレツだった。
そんな12月。

観た映画: 2019年12月
映画本数: 16本

太陽の帝国

2019年最後。プリプリしているクリスチャン・ベイル。公開当時に劇場で爆泣きした「パパとママの顔を思い出せない」のところで中年になっても泣く。親と引き離され、過酷な境遇と長さを表現する台詞としてはこれ以上ないって感じ。子供目線の曖昧模糊とした世界から大人を凌駕する厳しさへの変貌を目で演ずるクリスチャン・ベイル。安堵と共に閉じられる瞼のラストの秀逸な事。しかし英国人のどこでもクラブな感じってのは有事の際なんかには結構大事なのかもしれん。ヤンチャなベン・スティラーの存在は今回初めて気がつく。傑作。

鑑賞日:2019/12/31 監督:スティーヴン・スピルバーグ


バージンブルース

師走、師走、せわしない、シャバダバダな時期なので久々の鑑賞。選挙ポスターに歌にと嫉妬する程に天才的な野坂昭如。主演3部作の秋吉久美子が天使なのは言うまでもないとして、同じ歳設定の長門裕之に感情移入し過ぎて、何やらジンジンとかなしいかなしい音がする。おふざけ度満載の謎なパンやらズームからの美しい脱衣シーンと巨匠過ぎる藤田敏八。

鑑賞日:2019/12/30 監督:藤田敏八


EVA エヴァ

ロボット設計士って設定を抜きにするとかなり発言がヤバい感じになる。不気味の谷の先を行く未来での苦悩。人が産み落としたものの粗相なんかあちこちにあるのに、ロボットには消去のワードが用意されていると云うA.I.との共存の世界の遠さ。感情を破壊する行為は人にもロボットにも共通するのがまた泣けてくる。劇中に使われる色んなSpace Oddityがあるけれど、キッチリ孤独感からのコンタクト風な使い方でとても良い。出てくる大小様々なプロダクト、インターフェイスもスタイリッシュ。

鑑賞日:2019/12/29 監督:キケ・マイジョ


花の生涯 梅蘭芳(メイ ラン ファン)

覇王別姫が出来過ぎで比較するまでもない。ものの、その気になれば破る事もできる紙の首枷に支配された哀しい芸術家となかなか見応えはある。男色っ気を匂わせつつの義兄弟の契りとか言われると、三国志脳的にはちょっと熱い。大日本帝國下の日本人勢の演技力がヤバいのを別にすれば割と面白かった。細かい感情表現の変化を瞬間や静寂で魅せるのは流石。

鑑賞日:2019/12/26 監督:チェン・カイコー


囚われの美女

なんかリンチや清順やウィリアム・ギブスン原作のなんかを観た後みたいな気分になる、逆に。マグリットの世界観を映像化してやったぜって云う、よせばいいのに敢えて手をつけた感が普通に凄い。贋の世界のチープっぽさから、囚われているものの核心へと結びつく持ってき方が結構痺れる。音割れ気味なドローンサウンドとデューク・エリントン他の組み合わせもなかなか。

鑑賞日:2019/12/24 監督:アラン・ロブ=グリエ


ハウス・ジャック・ビルト

なんと云う事でしょう、匠もびっくりな地獄の門。真の芸術家への道をせっせと辿る、かなりストイックな話ではある。建築家と技師、作曲家と演奏家の芸術家として成立する云々で偉大なるグールドを引き合いに出すのは暴挙だろ。ベルリンの天使なブルーノ・ガンツに地獄を案内させる役どころや鉄の意思を持つ男のフルメタル・ジャケットとかも冗談が過ぎる。過去作で集大成っぽいと思いきや、考えてみたら最近のは結構ねじ込んできてるか。キングダムのウド・キアーとか完全に笑わせに来てるよね。人間の対立する二つの魂で、いつもキリストと闘っている風でアンチクライストな誤解を受けてしまう美意識高すぎなラース・フォン・トリアー、悪い奴は地獄に落とすと云う善人ぶりを遺憾なく発揮している。あの財布はどーかと思うけど。

鑑賞日:2019/12/17 監督:ラース・フォン・トリアー


クレオパトラ

斜め上なOPから始まって引出しの数が無限大過ぎる。遊び心で埋め尽くされている様な印象。「ブルータス、お前もか」のくだりやコマずれ発生の濡れ場やら、世にも斬新極まる感じで圧倒される。サワ〜サワ〜と由紀さおりのスキャットが良過ぎて余計に泣ける。あまりに天才的な冨田勲。とにかくまぁ、みんな乳首出てる

鑑賞日:2019/12/15 監督:手塚治虫、山本暎一


ストラッター

序盤こそJ・マスシス感が薄いけど、終盤からEDにかけてもの凄い捻じ込んでくる感じでイイ。ワンコ号(と思いきやパンダ)でPOD借りに来るOPから駄目ミュージシャンあるあるてんこ盛りで何故だか心が痛い。ところからのグラム・パーソンズにヨシュアツリーで視界が開ける感じはモノクロである事を忘れる程。友情出演のアリエル・ピンクのヤバい奴っぷりが異常平常。

鑑賞日:2019/12/13 監督:カート・ヴォス、アリソン・アンダース


ブルー・イン・ザ・フェイス

久々。ルー・リードからってのがまた良い。全てのシーンが楽しい稀有な一本。グルーチョやイーストウッドを飾る店内で一緒にEnjoy a Cigarしたい。

鑑賞日:2019/12/12 監督:ポール・オースター、ウェイン・ワン


快楽の漸進的横滑り

うわー、オチ...。どこまでも藪の中で行くかと思いきや、結構キッチリ収めてきた。話の内容は全然違うんだけども、諸々のバタイユ作品のあの危うい雰囲気をそのまま映像した感じ。冤罪で権力と戦う方法としちゃかなり悪魔的で、持たざる者の虚言妄言な類の武器の無敵感ったらない。超絶可愛い大当たりかつ、精神的に大外れ系女子と云う事で実際は遠慮願いたいけども、劇中の発言同様に観客は非日常世界を楽しんでいると思われる。

鑑賞日:2019/12/10 監督:アラン・ロブ=グリエ


千夜一夜物語

お子様は観ちゃ駄目なレベル。どサイケな時代の超エロスでオープニングからラストまで恐るべきクオリティ。制作陣から音楽、野次馬キャストに至るまで凄いのが揃い過ぎていてビビる。これはMADE IN JAPANって謳って良いやつ。

鑑賞日:2019/12/08 監督:山本暎一


リアリティ・バイツ

米国のいしだあゆみことウィノナ・ライダーをはじめとして今や大物の皆がプリプリしとる。このMTV感が良くも悪くもオレ的青春時代過ぎて鼻血が出そう。現実が甘くない事を他人事の様に思いながらこの映画を観ていた当時の自分に大人の現実の厳しさってやつを教えてやりたい。U2がノってた時代のあの感じが匂ってくる。懐古モードにならん様に気をつけよう。

鑑賞日:2019/12/06 監督:ベン・スティラー


カリフォルニア・ドールズ

ほぼ全編に渡って発せられるピーター・フォークの嫉妬するレベルな気の利いた台詞。存在が粋だよな。観てる方としちゃ笑えるシーンの連続なんだけど、劇中の本人たちは屈辱にも八百長にもめげずにやってるのがまた泣けてくる。小林幸子ばりの登場でアウェーをホームにすると云う超USA。これは良いロードムービー。

鑑賞日:2019/12/05 監督:ロバート・アルドリッチ


僕たちのラストステージ

フィルスが面白かったので、結構期待してたのだけど、脚本もジョン・S・ベアードがやった方が良かったんじゃないかと思われる。ローレル&ハーディに馴染みがないと、枯れた老人のただのいい話止まりな気がするな。お互いのストイックさにちょっと泣きそうになったけども、まずまず。

鑑賞日:2019/12/04 監督:ジョン・S・ベアード


エデン、その後

よく分からん。なんでだか東京戦争戦後秘話やらモアなんかを彷彿させる。演技と現実の違いと良さげな粉ときて、鑑賞者はまた虚構の世界をこちら側から観ているジレンマって感じで頭痛くなってくる。責める感じのエロス描写は今作でも異常に気合いが入りまくっているな。

鑑賞日:2019/12/02 監督:アラン・ロブ=グリエ


男はつらいよ 翔んでる寅次郎

貧しい田園"地帯"なお嬢様の桃井回。るんらるんら〜♪した劇伴にのせてのかなり迷惑なマリッジブルータイプだけど、傍から見てる分には楽しい。佐藤蛾次郎の鐘責めに披露宴の爆唄とちょいとオイタが過ぎる御前様や最初の披露宴でおいちゃん(2代目で別人)が出てきたり、初代満男、寅次郎と同じヘアースタイルの木暮実千代とで何かカオスな雰囲気。遅れてやってきたフォークってな感じがまた泣ける。

鑑賞日:2019/12/01 監督:山田洋次