Films: May.2021『ポンヌフの恋人』ほか
Jun,02 2021 13:15
2021年5月16日公開の新作『Novel / Timshel』のリリース作業でバタバタしていた割にしっかり映画を観ていた5月。
安定のジョン・ヒューストン監督『王になろうとした男』から始まって、なかなかの傑作揃いだった。
人生においてノーマーク中のノーマークだった中村幻児監督『ウィークエンド・シャッフル』。嫌いな人は嫌いそうだけど、個人的にはかなりときめく。
久々のBTFシリーズに『あしたのジョー 劇場版』の2作なんか中頃。どちらも言うまでもなく完成度が高い。
ハズレなしなピーター・ボグダノヴィッチ監督『ラスト・ショー』を皮切りに満点ものが続き、フレッド・ジンネマン監督『地上より永遠に』、ジョージ・スティーヴンス監督『陽のあたる場所』とプチ・モンゴメリー・クリフト祭り。
スタンリー・クレイマー監督『招かれざる客』、マイク・ニコルズ監督『卒業』の2作も完成度高すぎる。
ジャック・タチ監督『ぼくの伯父さんの休暇』と悩んだ末、'90年代以来に鑑賞のレオス・カラックス監督『ポンヌフの恋人』を5月の顔で。セーヌ川で『美しく青きドナウ』なサウンド・コラージュと共に躍動感ある花火の下りだけでご飯お代わりできる。
そんな今日この頃。
観た映画: 2021年5月
映画本数: 26本
ポンヌフの恋人
90年代に観た頃には全然ピンと来なかったんだけど、凄いねコレ。足から始まって片方だけ欠けたあれやこれの視覚的なカタワ感。からのどっちが盲目でってな具合で、そこにあるのは本当の愛情かどうかって云う不安定さとブレブレなカメラとで効果絶大。更には極め付けな二人のピントが瞬間ピッタリと合ったかの如くな花火の下りの躍動感と美しさに普通に息を飲む。ジャケ絵のシーンも実に美しい。ラストのアレはアタラント号を先に観とくべきだった。アレックス三部作もきっちり観直そう。ルンペンでも可愛いジュリエット・ビノシュだけども、日本ではそれを『刺身』と言う。で、廃墟前のサマリテーヌ百貨店。
鑑賞日:2021/05/31 監督:レオス・カラックス
ランブリング・ローズ
ニンフォマニアックなローラ・ダーンと云うある意味パワー系設定。ぱーぷりん風だけど深みのある(ウサギ500匹食べましたので...的な)良い子をやらせたらピカイチ。ワイルド・アット・ハートとは正反対な実の母娘のところのガッチリをはじめとして、なんだかんだで全方向を陥落するローラ・ダーン。と、保守的な時代の南部において奇跡的とも云える周りの寛容さとで何やらホッコリする出来。セックスよりも愛を望み、一家に時間を超越して愛された四次元の世界の住人って事で綺麗にまとまってる。で、ポロリに耐えるロバート・デュバル。あそこん家に住みたい&あそこん家のご飯食べたい。
鑑賞日:2021/05/30 監督:マーサ・クーリッジ
傷だらけの天使
あくまでショーケン的なトヨエツに水谷豊的な真木蔵人(イリーガル度は断トツ)なんだけど、最後はなんとなくそれっぽい感じに見えてくる。傷天にありそうなエピソードなんだけど、別に傷天じゃなくても良い気はする。名前も違うし。陸奥なロードムービーとしては結構良い出来だと思われるので、無理矢理絡めなくても良かったんじゃないか。貫禄の菅原文太に宇崎竜童はじめとして脇役は楽しいっちゃ楽しいんだけど、岸田今日子とマヅルカがないとどうもしっくり来ない。井上堯之バンドはちょっと印象が薄くて残念。何しに出てきたんだか良く分かんなかったけど、可愛い原田知世。
鑑賞日:2021/05/29 監督:阪本順治
陽のあたる場所
造形的に作りモンみたいな美男美女の主演の二人。一言で表すと問答無用のクズ男なモンゴメリー・クリフトではあるけれど、その広い額に『殺』から『怯』って字が見えてくる様な演技で見事。正直キャラでありつつの深層の殺意、野心を生み出さざるを得ない貧富構造とで実に上手く出来てる。結果的に陽のあたる場所に出られなかった幸福を求める主な三人、更にはお天道様(神)が見ている的な後ろメタファーとのダブル・ミーニングっぽい感じもイイ。『北の国から』のトロ子の悪夢の下りとかイレイザーヘッド的な焦りと怖さがある。しかし可愛い過ぎるな、エリザベス・テイラー。
鑑賞日:2021/05/28 監督:ジョージ・スティーヴンス
隣の影
お洒落大島てる物件。のっけのMacBook AirからiMacの切り替えからして良く出来てる。隣人を許せないってのは最後の二人になるまで殺し合うって事ってな訳で、隣人愛がほぼ消滅している冷た〜い終末映画。まぁ気持ちは分かる、分かり過ぎる。ドワーフやら剥製やら悪戯の質が超陰険。
鑑賞日:2021/05/26 監督:ハーフシュテイン・グンナル・シーグルズソン
時代屋の女房
2を観る前に久々。学生運動から流れるままに古道具屋の渡瀬恒彦と100%野良猫属性の夏目雅子。宙ぶらり同士がある時代のある場所で合致し求めると云う、まさに雰囲気ある小説ベースってな具合。居なくなってたり失ったりして寂しいものを得てしまった嬉しさ半面苦しさ半面って事でしみったれた話(良い意味で)になっている。不思議オーラ、もしくは異彩を放った女性像は森崎東作品には良く出てくる気がするけれども、夏目雅子の場合はリアルに危なっかしい感じでなんかヒヤヒヤする。アブサンに大井町の歩道橋下のロケーション、そんなもん見たくねぇーの下りとか面白いところも多数なんだけど、他の作品みたいに爆発的にこっちの心を鷲掴みしてくる程ではない気もする。行って帰ってきた大坂志郎の落胆のところに一番時代の流れの残酷さを感じる。
鑑賞日:2021/05/25 監督:森崎東
卒業
優等生からどクズへって事でアウトローレッテル貼られても脱却できて良かったじゃない。'60年代の保守的なアメリカへの挑戦状の如くって具合で、人生で歩むべき道は凝り固まったモンじゃないと云う若人の沸々したそれが伝わってくる。ラストの印象的な二人の晴れやかさからの不安と期待の入り混じった表情、それこそがレール上ではない人生そのものって感じで素晴らしい。ポスターから始まって鬼構図の連続にミセス・ロビンソンとの情事とプールの下りとかも実に良く出来てる。アルバム、シングルバージョンと異なり、しっかり映画に寄せたS&Gとデイブ・グルーシンのサントラは16歳くらいから現在に至るまで個人的ベストサントラの一角をしっかり占めている。
鑑賞日:2021/05/24 監督:マイク・ニコルズ
ぼくの伯父さんの休暇
数秒毎にミラクルが起きてる具合で良くこんなの作ったよな。ユロ氏と拍車と敷物のターンがツボりまくって大変だった。ヴァカンスな雰囲気に天窓の芸術的な絵面にラ・マルセイエーズをぶった切るところまで全てが最高。
鑑賞日:2021/05/23 監督:ジャック・タチ
サファリ
観たかったやつ。画面構成は完全にウルリヒ・ザイドルのそれなんだけど、ドキュメンタリータッチなだけに余計に皮肉が増している感じ。現地の資金源的な需要と供給が成立している訳で、感情先行の短絡的な動物愛護だけでは片付かない政治的なものを含めたあらゆる問題がある。これらの殺生が自然や誰かにとって益か無益か分からないけど、倒れた獲物の前で歓喜する神経は理解不能。ガイドの人間がピラミッドの頂点にいる事が間違ってるってのは完全に同意できる。人生で一番ショッキングなキリンさんだった。
鑑賞日:2021/05/22 監督:ウルリヒ・ザイドル
招かれざる客
リベラリストのお宅の内側に問題を投下するとどうなるかって事で面白い。イケメン優秀設定のシドニー・ポワチエなら何処行っても敵なしな気もするけど、アメリカ様の人種問題はそうは行かないと。主にシスコ嫁実家の邸宅を中心として実にテンポ良く展開する上、序盤から出てくる台詞の一つ一つにキレがあってビンビン来まくって全く飽きない。あらゆる感情を常時涙目で表現するキャサリン・ヘプバーン、アイスから事故に慌てまくりの末に身内じゃないモンまでジ〜ンとさせるスペンサー・トレイシーとご両人が素晴らしい。「お帰りですってー」とか「ぶぶ漬けいかがどす?」なんて言わないで、きちんと物事に向き合い、理解力のある親御さんだから成立する気もしなくはないけれども、問題提起に加えて映画の完成度の高さで傑作って言うしかない。
鑑賞日:2021/05/20 監督:スタンリー・クレイマー
地上より永遠に
みんな此処ではない何処かを求めているのに報われないと云う、酸いも甘いも知った大人じゃないと共感できないタイプの一本。軍に限らずこの世は報われない事だらけで、上手く立ち回る奴が得をする。それでも不器用さを美徳として共感する男たちの図にグッとくる。超人レベルに全てがイケメン設定のモンゴメリー・クリフトからバート・ランカスター、シナトラ、デボラ・カー、ドナ・リード他主要面子のキャラがそれぞれ立っているかつ、それぞれの苦悩が結構深く描かれている様に思われる。そんな日常的でない日常、平和な日曜の朝に奇襲をかけた日本人として、そこんところはスイマセンとしか言えん。海でイチャつくところと葬送ラッパの下りが特に素晴らしい。
鑑賞日:2021/05/19 監督:フレッド・ジンネマン
ピストルと少年
少年って言えば少年なんだけど、それよりはホームラン級の馬鹿がピストル持っている事で話が膨らみまくってる感じ。短絡思考で一切同情できない上に割と行き当たりばったりな気もしなくはないんだけども、少数の登場人物と車内メインで上手い事作ってある印象。人が良過ぎる刑事はともかくとして、姉ちゃんがどえらい可愛い...馬鹿だけど。
鑑賞日:2021/05/18 監督:ジャック・ドワイヨン
ラスト・ショー
いつどこでもハンク・ウィリアムズばっかり流れてる砂だらけで錆ついた街。そんな街でロクなもんじゃないと思いながら過ごすも、過ぎ去ってみれば色々と思うところがあるって青春。ベン・ジョンソン曰く「何もせずに老いたやつが馬鹿なんだ」って言葉と昔話の下りがグッとくる。主人公のティモシー・ボトムズの挫折っぷりは反動でこの後戦場へ行って意識ある肉塊になりそうなレベル。なんだけど、街の多くの人間は外に飛び出す事なく、青春の傷を抱えつつのマイルドヤンキー化必定って具合で、なんとも言えない気持ちになる。映画館のラスト・ショーで『赤い河』の最高潮のとこを挿入する辺りがたまらん。脇を固めるジェフ・ブリッジス筆頭の錚々たる面子も皆良い味出していた。傑作。
鑑賞日:2021/05/17 監督:ピーター・ボグダノヴィッチ
劇場版 あしたのジョー2
やっぱり駆け足なんだけど、何度観ても終わった後はこっちもきっちり燃え尽きる。おまけに葉子の告白のとこでいつも泣く。真っ白になったジョーとホセ(白髪)、リングの青春を理解できない紀子と後押しする葉子とあちこちの対比も実に良く出来てる。
鑑賞日:2021/05/17 監督:出崎統
バック・トゥ・ザ・フューチャー PART3
白紙の未来でまとめてすこぶる綺麗に終わる。各シーンにきっちり合わせて、音楽だけで語りかけ、単体で状況描写する様な劇伴が改めて凄いと思ってしまった。よくよく考えると危険な一発目を全部引き受けるライカの如くなマーティに科学から色恋探求のドク、おまけに『親殺しのパラドックス』的には滅茶苦茶な気もするんだけれど、楽しくて、壮大で、なんか分からんけど感動するってのが大事なんだね、映画ってのは。
鑑賞日:2021/05/16 監督:ロバート・ゼメキス
あしたのジョー 劇場版
久々。原作等と比べちゃうと早送り感が凄いけど、vs力石戦の怒涛の鬼作画で全てオッケーな気分になる。現実世界で葬儀をやる気持ちが良く分かるな。傑作。
鑑賞日:2021/05/15 監督:福田陽一郎
バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2
昨日の続き。中1くらいの頃に母ちゃんと観に行った思い出。ジェニファーが別人になっているのはタイムパラドックスの所作って事にしとこう。『素晴らしき哉、人生!』パロ風なとこも良かった。ほんと完成度高いな。
鑑賞日:2021/05/15 監督:ロバート・ゼメキス
バック・トゥ・ザ・フューチャー
『夏への扉』を読んだので久々に。出版されたボビーソックス天国な'50年代に行くのから、ストーリーのスッキリ綺麗な組み立て具合も含めて、かなり影響を受けている風で納得。まぁしかし良く出来た映画よね。
鑑賞日:2021/05/14 監督:ロバート・ゼメキス
ランナウェイズ
テイタム目当てに観たら一瞬&凄い劣化で萎える。別にランナウェイズに全然思い入れはないけど'70年代のグラムロックとガレージの混ざった感じのギャルバンは嫌いじゃない。マイケル・シャノン演ずるキム・フォーリーは有能過ぎて一家に一人欲しいレベル。俺好フランク・ザッパにソフトマシーンにバーズにと結構な範囲で絡みがあった様で、これだけで勉強になった。
鑑賞日:2021/05/13 監督:フローリア・シジスモンディ
ウィークエンド・シャッフル
冒頭から滅茶苦茶なのに何か平和な感じのする昭和感。なんでも突っつく現代の風潮ではこんなの作るのは到底不可能だろ。惜しげもない脱ぎっぷりから壊れっぷりを披露する完璧敵無しな秋吉久美子を筆頭にカオスって言葉以外見つからん。で、あらゆる種類の斜め上過ぎる着地点。シャンソンならぬテクノ・ポップな『夢見るシェルター人形』でゲンスブールとフランス・ギャルに真っ向から張り合えてる感じに当時の日本の強さを見る。最高。
鑑賞日:2021/05/12 監督:中村幻児
トム・ジョーンズの華麗な冒険
『ホテル・ニューハンプシャー』的なテイストはこの頃で結構固まっている様に見受けられる。放逐されて大変風だけれども、割と一本道で映画的には鮮やかなほどにすっきりしている印象。ストーリー上の絶対的なヒーローでありながら欠点だらけってのもまたニクい。時折入るカメラ目線が観客向けだったりそうでなかったりする辺りの斬新さに狩りやらチャンバラシーンのカメラワークが素晴らしい。出てくる女の子が大体可愛いのも結構ポイント高い。あそこは実の母ちゃんでなくて何より。で、華麗な手のひら返しなブリティッシュに閉口。
鑑賞日:2021/05/11 監督:トニー・リチャードソン
がんばれ! ベアーズ
ちょっと成長したテイタムが出てくるだけで場が締まる。登場シーンでMaps to the Starsを売ってるってのもなかなか。スクール☆ウォーズ的鉄板の筋で途中なんとなくダレるんだけども、終盤は子供のスポーツ事情のあれこれで結構泣けてくる。厄介なチームが別の意味で厄介なチームに仕上がってめでたし。ファストフードな飯テロ映画。
鑑賞日:2021/05/09 監督:マイケル・リッチー
カリフォルニア
UMAよりヤバそうな奴と旅をするモルダー。殺し未経験からの含みのあるラストと扉云々の話で上手く出来てるんだか出来てないんだか微妙なところ。訪れる現場のトリがネバダ核実験場ってのはセンスを感じる。ファニーゲームクラスのサイコキラーっぷりをこなすブラピはこの頃から既にお見事。それよりも脳みそがトロっとはみ出てそうなジュリエット・ルイスが可愛いので、点数増ししちゃう。
鑑賞日:2021/05/07 監督:ドミニク・セナ
ビルとテッドの大冒険
図らずも、まむしの兄弟に続いてお馬鹿バディもの。'80年代キッズのピロピロやる感じ+ヴァン・ヘイレン引き抜く気でいる真正馬鹿全開で超楽しい。タイムトラベルものの筋も結構練られている印象だったけれども、吹替だとHR/HMネタが半減する気もしなくはない。シェケナベイベー。
鑑賞日:2021/05/04 監督:スティーヴン・ヘレク
懲役太郎 まむしの兄弟
まむしの様にしつこいと馬鹿過ぎて物事理解するのに時間がかかると紙一重な気もする文さん&東映だとなんか違和感ある川地民夫。シャトーブリアンにくらいつき、無理矢理ショートケーキ等、序盤は行動がいちいちイリーガル過ぎてドン引くも、本物感漂う安藤昇が出てきてからが結構面白い。全体的になんか雑だけど。
鑑賞日:2021/05/03 監督:中島貞夫
王になろうとした男
文明レベルと軍事力の世代差があるのをもとに征服に向かうって云うヌルゲー状態のCiv的ロマン。アレキサンダー大王II世を名乗って大方は王(様になってる)になったのに残念系なラスト。それよりもフリーメイスンの勢力圏にビビる。俺たちやるだけやったよ的な挫折からの散りゆく熱い軍人魂、からのショーン・コネリー人形にショーン・コネリー首。実に面白かった。
鑑賞日:2021/05/02 監督:ジョン・ヒューストン
category: 映画レビュー
tags: 2021年映画レビュー, ジャック・タチ, ジョン・ヒューストン, スタンリー・クレイマー, ピーター・ボグダノヴィッチ, フレッド・ジンネマン, レオス・カラックス